〔講師吟〕
夏山や土に打ち込む靴の音 中坪 達哉
老鶯の声もサシバを恐るるや 同
木下闇続けば時を遡り 同
渓川の流れ涼しく身を抜けて 同
〔入選〕
朝曇立山の有り処を幾度も 太田 硯星
万緑や有峰の気を総身に 同
夏霧や朝には朝の湧きやうに 同
夏わらび息ととのへて待つとせむ 菅野 桂子
せせらぎの涼しき音を聞き分けて 同
足首に夏川の水冷たすぎ 同
秋のこゑ朽ち木の苔の辺りより 石黒 順子
早き瀬に足絡ませて山の夏 同
爽やかや木の香の部屋に目覚めゐて 同
釣舟草花の震へも沢の風 大井 孝行
木洩れ日の坂をゆるりと登山靴 同
渓風の継ぎ目を飛ぶや岩燕 同
夏草にひそむは兎まりこぼれ 金森める子
腰下ろす大いたどりの葉陰かな 同
真川夏石に踊りて渡り行く 同
掌の泥吹き分けてタゴガエル 平井 弘美
樹の洞を覗けば深し木下闇 同
春ならば分け入る林独活の花 同
夏雲へ点となりつつサシバかな 内田 邦夫
落したる帽子拾えば汗の滲む 同
羽乾き手足動かす蟻となり 同
木の椅子に句帳湿りて晩夏かな 明官 雅子
姫女?みづうみまでの道とほく 同
真昼間の翅ひしひしと夏の蝶 同
夏惜しむ三千尺の地に立ちて 練合 澄子
遠き日の匂ひの中を草いきれ 同
見晴るかす青嶺も湖もとの曇り 同
青き実の空見上げれば夏の雲 新井のぶ子
ばーそぶじーそぶ連れ添うて夏もゆく 同
振り返る折立の径赤とんぼ 同
大蟻の立ち止まりては回り道 栗島くり子
川原石飛んではずんで風涼し 同
敷きつめし川原の石を素足跳ね 同
万緑を切り分け下る導水管 木本 彰一
早き瀬を裸足で跳ねて童に戻る 同
山々を墨絵のごとく朝霧は 同
古希遊歩十五の夏はザラ峠 澤田 宏
杖ついて殿を行く夏木立 同
登山口鈴の音遠くなりにけり 同
長靴にわたる夏川心地よし 羽座 千敏
腐葉土をふんわりと踏む登山靴 水野 博之
うぐいすの鳴き声聞いてまた一歩 同
せせらぎの絶ゆることなしところてん 同
蟻追えばコナスビの花咲いており 矢野 昌子
丸太橋渡る先には独活の花 同
夏霧の林道ゆけば花白し 同
木々の中風の風鈴鳴り響く 山本 章広
種なりて桧扇の花いずこへか 同