第9回有峰俳句の会


〔講師吟〕

かたくなな笹の緑も紅葉山         中坪 達哉

(すさ)まじやみづうみは波寄せるのみ        同

ぶな)の実を()むや沢音背に胸に          同

ぶな()の実をそのうち()かず食らひけり       同

〔入選句〕

名も知らぬ秋草ばかり湖に出て       成重佐伊子

沢音の奥に沢音照紅葉             同

水源の音は天より秋晴るる           同

沢への橋丸太三本落葉積む           同

 

山紅葉(うろ)にも声をかけにけり        太田 硯星

満ちたるは樹々の香りや山紅葉         同

木漏れ日の原生林に秋惜しむ          同

森の侏儒(こびと)落葉を踏めば答へけり         同

 

この道の木の実踏まねば進まれず      菅野 桂子

黄葉(もみじば)の明るくてただ()いてゆく         同

秋空に点呼大きく沢に入る           同

さはやかな一礼をもて沢に入る         同

 

みづうみの秋の匂ひを(すく)ひけり       境田 芳雄

霧襖破り野猿は()(かい)に            同

やはらかく爪先沈む朴落葉           同

ボス猿の一と睨みして霧に消え         同

 

落葉踏む香りに酔ひて森の奥        木村 紅雪

有峰や病葉一つだになきと           同

あたたかく紅葉燃えたり湖寂し         同

鼓舞させしこれがかの沢水澄める        同

 

木の橋の折れて(まろ)びて落葉径        明官 雅子

りんだうの色を濃くして雨上がる        同

水澄みて「いのちの沢」といふところ      同

山椒魚のここが住処(すみか)か落葉降る         同

 

迷ひ込む紅葉浄土に時忘れ         石黒 順子

ひややかや口を大きく狛犬も          同

秋の空木の葉を鳥と見えもして         同

()けぬミズメの樹皮をはなさずに       同

瑠璃の実の沢ふたぎにて一休み       新村美那子

石投げて秋の湖寂しめり            同

去りかねて幾度振り向く峡紅葉         同

朝霧の晴れゆく山の錦かな           同

 

山霧を湧かせ薬師(やく)()の動き出す       山下 正江

乳色に山煙らせて紅葉川            同

さざ波の湖の鼓動へ照紅葉           同

木の実噛む熊除け鈴を忘れ来て         同

 

オカリナを聞けば降り来る木の葉かな    練合 澄子

渓深く霧湧くところ幾曲がり          同

朝寒の散策瀬音聞くばかり           同

落葉陰飛騨山椒魚は指の丈           同

 

濡れそぼつ黒檜(くろべ)の肌や秋気澄む       平井 弘美

山粧ふ湖のさざ波色づきて           同

樹の(うろ)に入りて瞑想秋深し           同

林道の畳みかけくる黄葉かな          同

 

山霧の宙より道の現はれて         堀田千賀子

この先はけものみちかも秋深む         同 

見返りて紅葉浄土や嶺々は           同

末枯(うらが)るる光と影の森を行く           同

 

三三五五紅葉浄土の風を行く        金森める子

のぞきこむ水すがしくて紅葉山         同

そぞろ行くぶどう照葉は重なりて        同

たぎつ瀬にひとかたまりの落葉かな       同

 

霧湖面幽玄無限山深し           木本 彰一

(いい)を盛る椎葉も今は枯れ落ちて          同

垂れ雲よ錦秋隠し如何にせん          同

散る後の余韻願ひし紅葉かな          同

 

霧払いダムの大きく現るる         内田 邦夫

もう一本竜胆ありて森の道           同

熊出しか鈴音高く男行く            同

落とさじと?(ぶな)の実しかと握りしめ        同

 

ぬかるみてぬた場は落葉まみれかな     新井のぶ子

山霧や鴉一羽の道案内               同

なだるるは秋の峰々有峰湖           同

橡の実を探せど未だ沢の道           同

 

山も秋言葉の絵の具見つかるか        尾近美栄子

懐かしむ霧にかすみし薬師岳          同

南無阿弥陀仏谷の流れも秋彼岸         同

落葉松の降る音を聞き君想う          同